From Software—Information Technology: Its New Meaning for Art
ソフトウェア展カタログより—情報技術:アートの新しい意味
Ted Nelson, Nicholas Negroponte, and Les Levine, From Software—Information Technology: Its New Meaning for Art, The New Media Reader, The MIT Press, 2003, pp.247–257.
初出
Software - Information Technology: Its New Meaning for Art, New York: Jewish Museum, 1970(p1,p18,p19,p22,p23,p60,p61,p62,p63)
カタログページ:
https://monoskop.org/images/3/31/Software_Information_Technology_Its_New_Meaning_for_Art_catalogue.pdf
https://gyazo.com/99fcbdae5398a0b523806bfd5c3af447
Futher Reading
Jack Burnham. Beyond Modern Sculpture: The Effects of Science and Technology on the Sculpture of This Century. New York: George Braziller, 1968.
Jack Burnham. "Art and Technology: The Panacea That Failed." The Myths of Information: Technology and Postindustrial Culture. Ed. Kathleen Woodward. Madison, Wisc.: Coda Press, 1980. Reprinted in John Hanhardt, ed., Video Culture: A Critical Investigation (Rochester, N.Y.: Visual Studies Workshop Press, 1986).
Edward Shanken. "Art in the Information Age: Technology and Conceptual Art," SIGGRAPH 2001 Electronic Art and Animation Catalog, 8-15. New York: ACM Press, 2001. <http://www.duke.edu/~giftwrap/InfoAge.html>
Edward Shanken. "The House That Jack Built: Jack Burnham's Concept of 'Software' as a Metaphor for Art." Leonardo Electronic Almanac 6(10) November 1998. <http://www.duke.edu/~giftwrap/House.html>
Introduction
*この章のIntroductionは、他章と異なり本文(カタログより抜粋)の展覧会についての説明である。
第一項:Software展の概要と特異性について
1970年にJack Burnhamが展覧会Softwareを企画した。Software展では、来場者にコンピュータの操作をしてもらうという、当時としては奇妙なことが行われた。また、Software展は、本書執筆時(2003年)にも人々を悩ませているような技術的な問題をアーティストに知ってもらうためのものであった。
デューク大学の美術史家であるEdward Shankenは、さまざまな点から、Software展は「大惨事」であったとしている。
しかし、「大惨事」となったにも関わらず、Software展はアーティスト・技術者・理論家・そして一般の人々に影響を与えた。
この影響は、展示された作品とアートの根本的なビジョンの両者によってもたらされた。
第二項:展覧会のカタログと作品『Seek』に対する人々の反応
Softwareには、Ted Nelsonが関わっている。Ted NelsonはLabyrinthというSoftware展のカタログを制作し、一般的にアクセスできる「最初のハイパーテキスト」とした。
他にも、ニューメディアで有名なNicholas Negroponte(◇関連: From Soft Architecture Machines)も参加しており、彼が率いるアーキテクチャー・マシーン・グループは、スナネズミを金属ブロックの環境に収容した作品『Seek』(カタログの表紙を飾った作品)を出展した。
『Seek』を見た人々は、この作品を以下のように捉えた。
典型的なサイバネティックス回路を形成しているように見える。
スナネズミが表現する好みを汲み取りながら、新しく心地よい構造へと構築・形成する機械のイメージが刺激的であったのだという。
人間とコンピュータの相互作用の良くない側面であり、将来の危険性が感じられる。
また、Ted Nelsonは、『Dream Machines(From Computer Lib / Dream Machines)』の中で以下のように述べている。
「小さなカンガルーのマッチ棒のような脚で動かずに立ち、ロボットアームが自分の世界を再編成するのを見ていた一匹のスナネズミを覚えている。スナネズミはどこか不可解なところがあるが、そのスナネズミはロボットアームを崇拝しているような気がしていた。彼はブロックが自分の上に降りてくるまで動かなかった。」
"I remember watching one gerbil who stood motionless on his little kangaroo matchstick legs, watching the Great Grappler rearranging his world. Gerbils are somewhat inscrutable, but I had a sense that he was worshiping it. He did not move until the block started coming down on top of him"
第三項:Software展で行われたプロジェクトや、関係しているアーティストについて
Software展では、以下のような技術的なプロジェクトが行われた。
館内で常にAM周波数による詩を放送
美術館の窓を低出力スピーカーにする
テレタイプやCRTによって、様々なデータストリームやコンピュータプログラムにアクセスできるようにした
Software展には、コンセプチュアルアーティストも数多く参加していた。
John Baldessari (1931-) 『Cremation Piece』
Vito Acconci (1940-) 『Room Situation: (Proximity)』
また、Labyrinthには、Nam June Paik(◇関連:Cybernated Art)が参加依頼を受けた際に送った返信文や、Allan Kaprowによるハプニング(◇関連:'Happenings' in the New York Scene)の説明も掲載されている。また、Hans HaackeやJoseph KosuthもSoftware展に参加した。
第四項:Software展の目的について
Jack BurnhamはカタログLabyrinth内で、以下のように述べている。
Software展の目的は「最も急速に成長している分野である情報処理システムとその装置に、我々の感性を集中させること」である。
我々が知っているような芸術を生み出すのは、コンピュータやその他の通信機器の領域ではないかもしれないし、おそらくそうではない。しかし、実際には、審美的な認識の領域全体を再定義するのに役立つだろう。
第五項:Les Levineの作品『Systems Burn-Off』を中心に、ニューメディア・アートのあり方について
Edward Shankenは、Les Levineの作品『Systems Burn-Off』をSoftware展におけるコンセプチュアル・アートの位置付けを理解する手がかりであるとした。
Edward Shankenは、「『Systems Burn-Off』は、ハードウェアとソフトウェアの境界線に関するLes Levine独特の定義を体現しており、コンセプチュアル・アートの課題に非常に密接である」とした。
Edward Shankenの論文『Art in the Information Age(→Edward Shanken)』内でも、この作品について述べられている。
Les Levineは展覧会名(『Software』)を提案した人物である。
第六項:Jack BurnhamのSoftware展に対する考え
Jack Burnhamは、Labyrinthの序文の中で以下のようなことに触れている。
ニューメディア・アートはコンピューターによって文化にもたらされる「プロセスの新しい形」を実装を通して探求することである。
最も重要なことは、アーティストが構成したプログラム的な状況に対して、人々が個別に反応することができる手段を提供することであると述べている。
Jack Burnhamは、こうしたプロセスを理解することの基礎をNorbert Wienerのサイバネティックスに見出したが、現在(ソフトウェア展開催当時)の作品はこの形式を超え、ソフトウェア・モデルに移行したと主張した。
Software展は、ハプニングにおける考えや、情報処理や当時のメディア論によって生まれた世界における考え方を基礎に、「インタラクション」について考察していた。
そしてこのSoftware展は、「サイバネティックスなビジョン」の実現の始まりであり、後のアーティストたちの作品への期待を表していたのだ。
本文
本項は『ソフトウェア展』での作品対話型カタログ『ラビリンス』のカタログページである。(pp.250)
Ned Woodman/Ted Nelson
Labyrinth:An Interactive Catalogue(1970)
初めに”ラビリンスの”概要、操作が述べられている
Labyrinthはハイパーテキスト、すなわち対話型テキスト検索システムである。
この対話型カタログを読むために、ユーザーはラビリンスのキースコープ端末に座り以下の操作を行うことができる。
F(forward)…画面外の次の項目を読む
R(return)…最初に戻る
アスタリスクで示される本文中の関連部分を取得するには アスタリスクで示されるコードを入力する。
退場時に出口にあるラインプリンターの係員 に名前を言うと、自分が選んだインタラクティブ・ カタログのプリントアウトがもらえる。
このカタログシステムは、Art & Technology 社の Ned Woodman 氏によって PDP-8 用にプログラムされた。
次にこのプログラムの興味深い点は以下であると述べられている
任意のディスプレイ スコープに出力できること
フォワードやリターンコマ ンドを可能にする一時的な端末の履歴がある
最終プリントアウ トを可能にする永久的なユーザのー履歴がある
最後にまとめとして以下が述べられている
10年ほど前から文書の形態としてハイパーテキストを提唱してきたネルソン。これはハイパーテキスト・システムの最初の公開デモンストレーションである。
本項は『ソフトウェア展』での作品『Seek』のカタログページである。(pp.253)
The Architecture Machine Group M.I.T
Seek(1969-70)
初めに『Seek』の概要が述べられている
『Seek』とは小型の汎用コンピュータが制御する感知/作用デバイスで、は環境に変化を与える物理的な情報を感知し、環境内の予期せぬ事態に対処する機構である。
『Seek』はおもちゃのブロックを積み上げたり並べたりすることが可能で、これにより形成されたブロック群は『Seek』内の3次元領域で暮らすスナネズミの小さなコロニーとなっている。
次に『Seek』が実際に何を行うのかが述べられている
『Seek』の知らないところでスナネズミ達がブロックを動かし、建造物を破壊し、タワーを倒している。その結果、現実世界の3次元領域と『Seek』内の計算領域の間で不整合が生じる。この矛盾に対処するのが『Seek』の役割である。対処の過程で 、スナネズミの行動が予測不可能である以上、『Seek』は応答的な行動を示すことになる。『Seek』はスナネズミが起こしたした変更を意図的に修正、拡大させるよう反応します。
次に『Seek』の機械的な特徴について以下があげられている
3次元の自由度を持つ運送アームを支える5x8フィートの上部土台から構成されてる。
アームの先端は電磁石、マイクロスイッチ、圧力感知装置で 構成されています。これにより2インチの立方体1個を設置、取ることができる。
システムの中核となるのはインターデータ社のモデル3コンピュータで、65536個のシングルビットのメモリを持ち、命令とデータで共有される。
次に『Seek』という作品が伝えたい事がまとめられている
些 細で単純なことでさえ『Seek』は比喩的に人間(スナネズミ)の予測不可能な性質に機械が対応できない、現実世界の状況を超えていく。現在の機械は、環境における文脈の急激な変化に対応することが苦手であり、この適応力のなさが『Seek』が直面している問題である。
コンピュータが私たちの友人であるなら、コンピュータが私たちのメタファーを理解しなければならない。変化し予測でき ない、文脈に依存する人間のニーズに対応するためには、『Seek』が初歩的な不確実性を単純な方法で 扱うのと同じように(これらのメタファーを利用して)複雑な偶発性に高度な方法で対処できる人工知能が必要となる。
最後に『Seek』の開発者、スポンサー及び『Seek』の今後について述べられている
『Seek』はフォード財団がスポンサーとなっている研究機関「アーキテクチャ・マシン・グループ」に所属す るM.1.T.の学生によって開発・構築されたものである。
参加者は学部生研究奨励プログラムに参加する新入生から、研究補助の一環としてエレメントをデザインする大学院生まで、 さまざまな人がいた。
『ソフトウェア展』の後、『Seek』はM.I.T.に戻る予定
『Seek』は今後コンピュータ支援設計や人工知能を学ぶ学生による研究のためのフレームワークとなるだろう
本項はレス・レヴィンによる『ソフトウェア展』での作品『Systems Burn Off』のカタログページである。(pp.254-255)
Les Levine
Systems Burn Off X Residual Software(1970)
最初に本作品の概要について述べられている
今回展示する33点の写真は1969年3月、ニューヨークの 批評家やプレスがコーネル大学『Earth Works』展の オープニングを見るためにイサカを訪れた際に作家が撮影したものである。 1969年4月、レス・レヴィンは31枚の画像をそれぞれ1,000部ずつコピーした、 31,000枚の写真をシカゴのフィリス・カインド・ギャラリーに展示した。ほとんどは 床に無造作に置かれ、ゼリーで覆われ、いくつかはチュ ーインガムで壁に貼り付けられ、残りは販売されていた。
次にレス・レヴィンが”Software”という言葉の定義について述べている
「”Software”はどんなシステムも使用するプログラミングマテリアルで、例えばコンピュータプロ グラムのフローチャートやサブルーチンのようなものだ。実際は、本当の意味における”Software”は、 ‘あらゆる経験に必要な精神的知性’である。また、’あるタスクを実行するために必要な知識’、あるいは’そのタスクに関連する情報を伝達するために必要な知識’と表現す ることもできる。誰かが言った「明日は雨が降りそうだ」は”Software”である。オブジェクトや物質的要素と結びつかない活動は全て”Software”の結果である。それらの表象は”Hardware”である。これらの表象に関する情報は”Software”である。」
次にレス・レヴィンは”Software”が持つ残留性について述べている
「全ての”Software”は 残留性を持っている。その残留性はニュースやテレビなどいわゆる’メディア’と言う形を取るだろう。多くの場合、オブジェクトはそのオブジェクトと関連する”Software”よりも遥かに価値がない。オブジェクトはシステムのおわりであり、”Software”はオープンな継続システムである。メディアを通して見るものは、直接見るものと同じだけのエネルギーを持つので、あるものを直接見るという体験は、”Software”で制御された社会ではもはや価値がないのだ。私達はラジオやテレビで起こっていることが実際に起こったかどうかは問わない。エレクトロニクスを通して精神的に対峙できるという事実だけで、それが存在することを知るには十分であろう。」
最後にレス・レヴィンは前述の内容を踏まえ当時のアートに対しこう述べている
「.....これと同じように、今日制作されたほとんどのアートは、アートに関する情報として終わっている」
編集:及川純奈 野中創矢